地形図

2013年10月29日

今回は3色刷りから多色刷りとなった印刷技術の変更について解説します。
 
 ポスターや写真などの印刷では、色の3原色(シアン、マゼンタ、イエロー)に黒を加えた4色で、あらゆる色を表現できます。これは、それぞれの色の濃度を下図のような網点に変換し、このパターンにインクを載せて4色を重ね刷りすることで、元の色を再現します。これをプロセスカラー印刷と言います。

AMスクリーン

 しかし、この方法ですと正しい濃度に対応させるためには、ある程度の大きさがないとだめなので、地図のように非常に細い線が多く使われる場合は、4色を重ね合わせた時に違った色になってしまったり、極端な場合は線が途切れたりしてしまいます。そこで、従来の地図印刷では、予め使用する色のインクを混合して作り、インクの重ね合わせではなく、ベタ塗りで画線を印刷する、特色印刷という方法がとられていました。

例えば25千分1地形図(3色刷)では、墨(黒)、褐(茶)、藍(青)の3色のインクを作り、ベタの線画の版にそれぞれの色のインクを載せて印刷することで、途切れや色ずれのない印刷を実現していました。

 新しい25千分1地形図(多色刷)では、多彩な色を使うので、それらを全てこの特色印刷で作ると、版の数も刷りの数も増えてしまい、コストが上がってしまいます。そこで、今回は、プロセスカラーで印刷する方式を採用しました。これが可能となったのは、最近の印刷技術の進歩によるもので、具体的にはFMスリーン技術と、CTP技術と呼ばれる技術です。
 
 FM
スクリーンとは、下図のような網点パターンで濃度を表す方式です。これに対して、従来の網点方式はAMスクリーンと呼ばれます。AMスクリーンは、網点の間隔(並び)は一定で、点の大きさで濃度を表します。これに対し、FMスクリーンは網点の大きさは一定で、点の密度で濃度を表します。

FMスクリーン

AMスクリーンでは、実際に細かい格子のスクリーンを原画像のフィルムにかぶせ、光を透過させると、原フィルムの濃度に応じて透過する光の量が変わり、網点の大きさが変わるので、写真工程で網点に変換できます。しかし、FMスクリーンのような網点を発生させるスクリーンは存在しません。そこで、元画像のデジタルデータからコンピュータで網点のパターンを発生させます。このソフトをドットジェネレータと呼びます。

ドットジェネレータでは、網点の並びもランダムにできるため、4色の版を重ねた時にモアレ縞が発生する心配もいりません。また、技術進歩によりドットの大きさを非常に小さくできるようになったので、細い線でも色の重ね合わせで表現できるようになりました。

 もう一つの技術進歩はCTP印刷です。これはComputer to Plateの略で、コンピュータのデータから直接印刷版を出力する技術です。製版フィルムを介したこれまでの写真工程では、像のにじみなどで、非常に小さいドットは再現が困難でしたが、CTPで可能になりました。また、フィルムのズレや伸びがないため、位置合わせが非常に正確で、地図のような細い線でも、色ズレを起こさず正確な印刷が可能となりました。

 従来の25千分1地形図は3色刷りだったので、版の数が少なく低価格でしたが、新技術の多色刷りへ移行したことで価格が上がってしまいました。しかし、まだ計画にはありませんが、20万分1地勢図(6色刷)、50万分1地方図(7色刷)、100万分1日本(9色)、500万分1日本とその周辺(9色刷)や、主題図など色数の多い地図では、多色刷りの方が安くなる場合もあります。

12月1日にはさらに10面刊行される予定と聞いています。今後の技術改良や、国土地理院の新刊の計画に期待しましょう。



jmcblog at 09:30 

2013年10月28日

前回は新しい地図はどこが変わったのかについてのブログでしたが、今回はリニューアルの経緯(なぜ変えたのか)と電子地形図25000との関係(デジタルデータと紙地図の関係)について解説します。

 25
1地形図は、全国をカバーする最大縮尺の地図として、50年ほど前から整備が進み、30年ほど前に全国整備が完了し、その後修正や更新が繰り返されてきました。その間いくつかの記号の廃止や追加がありましたが、地図の様式はほとんど変わらず、最も基本的な地図として親しまれてきました。今ではパソコンや携帯、カーナビなどでデジタルの地図が花盛りですが、山登りや教育、行政など依然として紙地図も広く使われているところです。

このように、デジタル地図のニーズが高まる中、紙地図のニーズも変わらずあるため、国土地理院では限られた予算の中でアナログもデジタルも含めた全体の作成工程を見直し、効率化・合理化を図る必要に迫られていました。

 平成216月に発表された「基本測量に関する長期計画」では、「地図等により国土を表す際の基準となる基本的な地理空間情報として、電子国土基本図等を整備する」と記述され、地図情報とオルソ画像、地名情報で構成される方針が示されました。

平成2310月に発表された「フレッシュマップ2011」や平成2411月に発表された「フレッシュマップ2012」では、まずベクトルデータである電子国土基本図を整備・更新して、これを基に「基盤地図情報」、「電子国土Web」、「数値地図(国土基本情報)」、「電子地形図25000」などの形で提供していくこととされました。
 印刷図の更新についても、電子国土基本図から作成する方法に順次移行して、平成25年度半ばから刊行を開始することとされました。

 このように、統合された地図作成体系では、電子国基本図が一番基となるデータとなります。その作成・更新には地方公共団体等の協力も得て、都市計画区域では縮尺25百分1に相当する精度、その他の区域は25千分の1の精度で、日本全国をシームレスにデータベース化しています。また、更新は市町村単位等で面的に更新する他、道路など変化した部分だけ項目単位で更新し、できるだけリアルタイムに近い形で更新されることを目指しています。

 一方、25千分の1地形図(多色刷)印刷図は、電子国土基本図から作られるわけですが、印刷図という性格から電子国土基本図が更新されても連動して直ちに更新されるわけではありません。従って、最新の地図画像データが必要な場合は、電子地形図25000をご利用頂き、印刷図が必要な場合は情報が多少古い可能性があることを了解して地形図を購入して頂くことになります。

しかし、これまでは地図の在庫がなくなった場合に、同じ原版から補給印刷していましたが、地形図の作成方法の変更によって、補給印刷の度に最新の電子国土基本図から印刷できるようになりました。従って、印刷図もこれまでよりは新しいものとなります。

 また、電子国土基本図が都市部では25百分1の詳細情報を持っていることから、これから作られる地形図も詳細な情報を表現しなければならなくなりました。そこで、平成242月から平成257月まで設置された「電子国土基本図のあり方検討会」で、使いやす表現方法が検討され、多色刷りによる多彩な色表現を用いた図式が決定されました。

 このように、紙地図としての25千分の1地形図(多色刷)、デジタルデータの電子地形図25000や電子国土基本図など、多様な形態で提供されるようになり、それぞれの特徴もあるので、必要に応じて使い分けて頂ければと思います。



jmcblog at 11:22 

2013年10月25日

国土地理院では、長年にわたって親しまれてきた3色刷りの2万5千分1地形図を、およそ50年ぶりに一新し、今後数年をかけて多色刷りの地図へ変えていきます。その第一弾として、11月1日に下図に示す10面が刊行されますので、この「地図の散歩道」で、新しい地図の特徴などを3回に分けて解説します。

刊行図

今回はその初回として、新しい地図はどこが変わったのかについて解説します。

 新しい地形図は、昨年8月30日から刊行を始めたデジタルデータの「電子地形図25000」とほぼ同等の内容で、都市部では2千5百分1の地図に相当する詳細な情報が盛り込まれています。また、これら詳細な情報を見やすく表現するため、これまでの3色刷り(黒、茶、青)から、多彩な色を使った多色刷りにしています。
 

地形表現では、等高線の他に緑色の陰影をつけて、立体感をより分かりやすくしています。黒色は、注記や建物記号、植生記号、道路など多くの表現で使われているため、建物については他の記号と区別できるように、従来の黒から橙色に変えています。また、従来は高速道路と国道だけを茶色に着色していましたが、新図では高速道路を緑、国道を赤、都道府県道を黄色にして、道路の区分を分かりやすくしています。さらに、国道番号は道路標識と同様に青色の逆おにぎり型に数字を白抜きにしています。路線名、駅名、橋名、トンネル名など、道路や鉄道に関係する注記は緑色にしています。


新しい地形図は、1枚330円(消費税込)で地図販売書店等から購入できます。今後毎月新刊が刊行され、数年で全国の地形図が新しい多色刷り地図に置き換わっていく予定です。実物をお手に取って頂き、感想などを地図センター宛にお寄せいただければ幸いです。

下の図は、試作された「高知」の一部と今回刊行される「奥多摩湖」の一部で、上が従来の3色刷り、下が新しい多色刷りの例です。

多彩な色表現で分かりやすくしていますが、特に都市部では盛り込まれる情報量が従来の地形図より相当多くなっているため、若くないと読むのが少しつらいかも知れません。


旧1旧2
従来の2万5千分1地形図(3色刷)
(クリックすると拡大図)

新1新2
新しい25千分1地形図(多色刷)

(クリックすると拡大図)



jmcblog at 09:00 
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