2012年12月19日
『レッドアローとスターハウス』
12月16日に投票が行われた衆議院選挙が終わりました。 今回は定員480議席のうち294議席を獲得した自由民主党が第一党となりました。一方、日本共産党は8議席にとどまり伸び悩んでいます。
1989年の「東欧革命」、1991年の旧ソ連邦解体以来、日本では社会主義への期待は色あせてしまいました。しかし、いまから40年前の1970年代前半、自由民主党の単独長期政権が続いていたにもかかわらず、国や地方の選挙では社会主義を掲げる政党が議席を伸ばし、それらの党に支持された政治家が首長を勤めるいわゆる「革新自治体」が大都市を席巻していました。特に1972年の総選挙で日本共産党は結党以来最高の38議席を獲得し、まさに「確かな野党」として政策レベルにも相応の影響力を持っていました。
当時の社会主義政党の大きな支持母体は、労組などの組織票を除くと、大都市郊外の団地に住む人たちでした。日本住宅公団(現UR)が建設した団地に住む人たちは、学歴・所得ともに比較的高水準にあり、社会主義の古典的理論によれば「ブルジョア」に分類されるはずでした。 このような時代状況を、地理空間の視点から考察した本があります。明治学院大学教授の原武史さんによる『レッドアローとスターハウス〜もうひとつの戦後思想史』(新潮社・2012年9月刊)です。
レッドアローとは、西武鉄道が走らせる座席指定特急車両の愛称、スターハウスとは、団地景観に変化を与えるよう設計された星形の平面形を持つ集合住宅棟のことをいいます。
本書では、武蔵野台地を切り拓いて多くの大規模団地が建設された西武鉄道沿線という時空間を記載していきます。原さんが提唱している空間政治学です。論考に際しては、原さん自身の団地経験に加え、日本共産党の前中央委員会議長で西武鉄道沿線の公団ひばりヶ丘団地にも住んだ不破哲三さんへのインタビュー、そして当時の団地自治会報などを発掘し読み込むなど、極力一次資料まで辿っています。
詳しくは本書を読んでいただくとして、そこで明らかになるのは、高度成長期の日本が目標としたアメリカ型生活のモデルと思われた団地の景観は、当のアメリカには無く、むしろ旧ソ連や東欧の大都市近郊に建てられた大規模住宅群に似ており、そこで営まれる一種の「共同生活」は、社会主義思想との親和性が高かった、という逆説的な状況です。
本書の最終章で、ニュータウン以前の大団地の最終形ともいえる公団滝山団地(東久留米市)に辿り着きます。そして、大きな反響を呼んだ原さんの問題作『滝山コミューン一九七四』(講談社・2007年5月刊)へと繋がっていきます。
次回は、特急レッドアローに乗って秩父へと向かいます。