2012年09月13日

『天地明察』

 今年は希な天文事象の多い年で、5月には金環蝕、6月には金星の太陽面通過、8月には(全国的に天候に恵まれない日でしたが)金星が月の後に隠れる金星食がみられました。これらの現象は、長年の天体観測の結果から時分秒単位で予測されていた事象です。さらにこのことを利用して金星観測から日本の経度を正確に求める観測が行われたことを、5月に掲載した記事でお伝えしました。
 このように天体観測と測量すなわち土地の位置の計測とは、密接というか裏腹の関係にあります。そして、もうひとつ、星や地面の「位置」を知るとき重要なものが、お察しのとおり時間です。

  国を治める基本的な要件は、国土(領土)と国民、すなわち国土の位置・範囲を地図や台帳で示し、国土と国民との関係(地籍)を明らかにすることで、これらと並んで、国民の生活時間を一律に支配するも不可欠でした。古代日本における天皇は、「日和見(ひよりみ)」といって、観天望気により時刻や暦を定めることで、権威を得ていたといわれます。

 古代の暦は、当時の先進国であった中国から導入したものでした。古代中国の天文観測は、日蝕の予測ができるほどに精密なものでしたが、862(貞観4)年から用いていた宣明暦も、江戸時代初期には、実際に観察される時間と暦が定める時間とのズレが顕在化していました。そこで徳川幕府は、渋川春海(1639-1715)という数学者・天文学者を起用して、天体観測や各地の緯度・経度の測定等を行い、最終的に国産暦を確立しました。

 青年時代に安井算哲と名乗っていた渋川春海の、改暦への取り組みを描いた映画天地明察が、この9月15日(土)から全国で上映されます。監督は『おくりびと』の滝田洋二郎、主演はV6のメンバーでもある岡田准一、原作は冲方丁による同名の小説(2009)で、第31回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

 いま、位置を知るため「GPS」と呼ばれる器具を使っておられる方も多いでしょう。手軽に使える「ハンディGPS」から、プロの測量士が用いるGPS測量機までいろいろあります。
 IMGP0951sGPSは、Global Positioning Systemの略称で、人工衛星が発する電波を利用して位置を測る測位航法衛星システム(GNSS)のうち、アメリカ合衆国が運営しているものです。

写真は沖縄県石垣市にある
電子基準点

 各国のGNSSは、中国の北斗を除き、対応機器さえ用意すれば原則無償で利用できます。一見、出血大サービスにみえますが、いま技術ビジネスとして急伸している位置情報の技術基盤を提供することで、これに関する国際的な施策の主導権を握るためともいわれています。

 国土地理院が中心となって勧めている地理空間情報活用に関する施策なかで、衛星測位に関わる政策の基本はPNT(:Positioning, Navigation and Timing)と略記されています。PNはそれぞれ「測位」「航法」と訳せますが、"Timing"の適訳はいまのところありません。
 衛星が発する測位信号は一種の「時報」で、4機以上の衛星からの時報を受けて、その僅かな時刻差から導かれるのが3次元の位置+時刻(の誤差)、計4次元の座標です。衛星測位から得る位置と時刻に関する情報が、いまや世界での基本情報となっているのですから、"Timing"とは現代の「日和見」といえるかもしれません。

120915_141539s 『天地明察』に登場する、東京渋谷の金王八幡宮には、江戸時代に奉納された算額(数学の問題や解法を記した絵馬)が保存されています。9月14日(金)〜16日(日)は大祭です。
[9月14日追記]
 
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