2012年07月20日

見にウォーク(5a) 三浦半島 − 三戸海岸 −

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夏休みと少年ドラマ
 地図センター本社がある東京都目黒区の公立小中学校では、7月の第4週から夏休みに入ります*。夏休みの始まりといえば、子供たちにとって2学期など未だ視界に入らず、今夏こそ何か冒険ををしてみたいと思ったものですが、現在ではどうなのでしょうか?

 1970〜80年代、NHK総合テレビで「少年ドラマシリーズ」という番組がありました。1973年夏に放映された『つぶやき岩の秘密』。三浦半島の西海岸に住む少年が、岬の断崖に老人を目撃したことから、奇妙な事件に巻き込まれ、幼い頃の両親の死の秘密に絡んだ謎を解いていくというミステリ冒険譚でした。
 全編が三浦半島の三戸海岸でのロケで、映画のようなタッチの画面が臨場感を出していました。夕景の海に石川セリが歌う主題歌『遠い海の記憶』がかぶさるエンドタイトルの印象から、晩夏の放映だったと思い込んでいましたが、情報サイトによると7月9日〜19日で、夏休みの直前でした**。tsubuyakis
 原作は、『孤高の人』『剱岳・点の記』など山岳を舞台にした小説で知られる作家・新田次郎(1912〜1980)です。生誕百年にあたる今年(2012年)6月に新潮文庫として再刊行されました。
 ジュヴナイル篇にしては文章が硬質ですが、小学校高学年が夏休みに、少し背伸びをして読むのに適しているともいえます。気象庁技官だった作者ならではの天候に関する記述が効果的に使われていますが、登山経験に裏打ちされた地形の描写も的確です。磯浜から急坂を登り詰めると、何事もなかったかのように平坦な台地面に大根畑が広がる風景は、まさに三浦半島のものです。

 ミステリ作品ですので、あまり詳しく立ち入るわけにはいきませんが、実在する地形を観ながら、三浦半島西南部を歩いてみましょう。

海岸段丘
 京浜急行久里浜線の三崎口駅で下車します。ホームは切り通しの中にありますが、階段を上がって改札を出ると駅前は平坦な地形です。
 三浦半島南部の地形は、広い段丘(台地)面と海食崖で特徴づけられます。地形学の研究から段丘面は大きく3段に区分され、高い(古い)方から引橋面、小原台面、三崎面と名付けられています。三崎口駅前の台地面は三崎面で標高40mくらいですが、北方向を眺めると一段低い標高30m内外の台地面が広がっています。こちらも三崎面なのですが、活断層による変位を受けて高さが違っているのです。
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 後編(5b)で訪ねる油壷へはバス便がありますが、三戸海岸へは頑張れば歩いていける距離です。逗子、葉山方面から通じる国道134号は、三崎港方面に向かって上り坂で、三戸入口というT字路では標高50mを越えています。このあたりは小原台面です。三戸海岸方面へ右折すると緩い坂を下って三崎面に戻り、畑の中をさらに1kmほど歩きます。1970年代の空中写真では左側に台地を刻む「谷地」がありますが、現在は圃場整備の工事中で地形が変わっています。

 主人公たちが住む村のモデルと思われる初音漁港付近の集落は、谷地を塞いだ砂州(砂碓)の上に載っています。夏は海水浴場になる砂浜からは、晴れていれば、相模湾をはさんで富士山や伊豆半島がみえます。小説では、漁港の南にある断崖が「塚が崎」、崖下に「つぶやき岩」、突端の先に岩礁「鵜の島」、そして「塚が崎」には旧日本軍が「本土決戦」に備えて掘削した洞窟があります。
 三浦半島にみられる岩は新第三紀の凝灰質堆積岩で、掘削しやすい割には崩れにくく、旧軍の重要施設が多かった三浦半島には、実際に要塞跡の人工洞窟がたくさんあります。
 海岸からは岩山にみえる「塚が崎」の上は照葉樹林に覆われ、その背後の広い台地面上は大根畑(夏は西瓜畑)です。「つぶやき岩」のある荒磯には、海面から1〜2mの高さの岩棚があり、釣り人に絶好の足場となっています。

  「塚が崎」の南は、小網代湾という東西に細長い湾入で、小説やドラマにもでてくるヨットハーバーがあります。このあたりから三崎港にかけて、海岸の出入りが著しく、海食崖と小さな浜が交互に現れます***。
 小網代湾の南に突き出た長さ約1kmの細長い半島も、頂部は台地面(三崎面)となっており、リゾートホテルやマリンパークなどの観光施設が立地しています。この半島の南に食い込む湾入は油壷湾で、国土地理院の験潮場があります。
見にウォーク(5b)では、油壷験潮場を見学します。

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三戸海岸付近の地形図画像

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1970年代の空中写真

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地形分類(土地条件図)

*   学校の夏休み期間は、地域によってかなり違うので、季節感は補正して読んでください。

** NHK少年ドラマシリーズについては、充実した情報サイトがいくつもあります。この記事ではここを参照しました。本ブログでも、2011年6月の記事『東北地方太平洋沖地震/東日本大震災 (3) 須知徳平「三陸津波」』で言及しました。

***岬先端部の崖下は足場が悪く干潮時でも歩いて通り抜けることは不可能です。

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