2012年07月02日

ドイツ「カールバンベルヒ社製」測量器(1)

 2009年に公開された映画『劔岳 点の記』のなかで、陸地測量部の測夫・生田 信(いくた のぶ)役の松田龍平さんが、真鍮製の測量器を点検している場面がありました。この測量器は、当時の陸地測量部でよく使われていたドイツ・カールバンベルヒ社製の経緯儀です。
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  わが国の近代的な測量網の骨格は、ドイツ「カールバンベルヒ(Carl Bamberg)社製」測量器によって測量されました。一・二・三等三角測量では、それぞれ「カールバンベルヒ社製」一・二・三等経緯儀が用いられ、一等水準測量も、同社製の一等水準儀によって実施されました。国土地理院の地図と測量の科学館でこれら経緯儀等の優美な姿を見ることができます。
  
 それまで日本の測量は、海軍のオランダ式(幕末期)測量やイギリス式(維新後)測量、北海道開拓使のアメリカ式測量、工部省のイギリス式測量、内務省のイギリス式およびアメリカ式測量、そして陸軍のフランス式測量がそれぞれ採用されていました。しかし、測量機関は徐々に統合が図られ、残る内務省の測量も1884(明治17)年に陸地測量部の前身である参謀本部測量局へ、人・器材・予算とともに統一されました。 
 
 陸地測量部は、近代的測量を開始するに当たって、1871(明治4)年から12年間、ドイツ帝国(当時)の測量事業と三角測量事業を習得した田坂虎之助(1850-1919・広島藩生まれ)にその指導を託しました。当然、ドイツ方式の測量が取り入れられ、測量器も新たにドイツ製のものが多数購入されました。地図においてもフランス式の「多色図式」からドイツ式の「一色線号式」に変更されました。早速、田坂は測地測量の作業指針である「三角測量方式草案」を作成し、これに基づき全国測量が開始されたのです。 
 
 さて、最近、この測量器の製造社名"Carl Bamberg"は「カールバンベルヒ」よりも「カールバンベルク」と表記する方がよりが正しい、という指摘があります。これはドイツ語の「母音+g」は「ヒ」と発音するが「子音+g」は「ク」と発音するからというものです。いろいろ資料を調べて見ましたが、陸地測量部が作成した資料では、すべて「ヒ」と記してあり、例外はありません。12年間ドイツに滞在した田坂であってもカナ文字に表現する際に苦労があったのか・・・。因みに「醤油」は英語で「ソイ(soy)」、「人力車」は「リクショー(rickshaw)」・・・とか。言葉も母国を離れると発音が変わるようです。最初、影響力の強い人が日本語表記したものが、その後、慣用的に広く、長く使われてきた例はこのほかにもいろいろあるかも知れませんね。
__Script by jmchako( (2) へつづく)

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