2012年09月

2012年09月24日

 前回は、伊能忠敬が振り子時計を使って経度の測定を試みたお話しを書きました。その続きです。

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 上の図は、日本列島上の3地点で振動回数を計った様子を模式化して描いたものです(日本国際地図学会および伊能忠敬研究会監修)。
 この3地点の振動回数を比べるとその回数は異なった結果となります。この振動回数の差が経度差ということになります。1日の振動数も現地で測られていますが約59,000回あまりの記録があり、この間に地球が一回転しますので振り子の振動数1回当たりの角度が得られ、観測地点の経度差を角度で表すことができます。

 以上がその原理で、実際には忠敬の測量班出張期間中に日食や月食は13回起こりましたが、現地と大阪・京都の3地点の天候が同時に可能だったのがわずか2回しかありませんでした。このため伊能図の作成には役立てられなかったようです。

 しかしながら、この方法で多年にわたり観測した結果、江戸・大阪・京都間の経度差だけは成果があるため、忠敬はこの観測値に基づいて、出来上がった地図上に経度線を引いたと推察されます。
 たとえば、1809(文化6)年「伊能忠敬幕府上呈の日本図」では、経度線は「京師(京都)を中度とし東西に分かつ」とあり、京都より東西に各1度ずつ経線が描かれ、「東四度」が東京付近、「西五度」が鹿児島付近に引かれています。

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 日本沿海輿地図(伊能小図)「東日本」(東京国立博物館蔵)

 本格的な経度測量によってグローバルな経度が測量されるのは、クロノメータ(ゼンマイ時計)を用いた明治の近代測量開始まで待たなければなりませんでした。
(script by jmchako)


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2012年09月21日

 明治の近代測量開始以前に作成された江戸期の地図に経、度線が表現されているものがあります。この経度線は果たして実測に基づいた線だったのでしょうか。

pendulum 伊能忠敬が全国の測量に持ち歩いた測量器具の中に「垂揺球儀(すいようきゅうぎ)」という振り子時計があります。現在、伊能忠敬記念館に展示されています。これは経度の測定に用いるため、1日の時間や日食、月食の始まりから終わりまでの時間などを測ったものです。さて、どのような原理で振り子時計を使って経度を得たものなのでしょうか考えてみましょう。

 地球は1日かけて一回転する極めて正確な時計です。この地球上で我々の生活は太陽の動きに従って営まれています。太陽が我々のいる真南の方向を通過(南中)した瞬間、これを地方太陽時における正午と呼んでいます。日本のどこに住んでいるかによって太陽が真上に来る瞬間は異なりますので、標準時でみれば、それぞれその時刻は微妙に違ってきます。
 忠敬は旅先でこの南中時刻から日食や月食などの天文現象が生じるまで、時計の振り子が何回振動したかを測りました。これは日本のどこにおいてもこの天文現象の瞬間を見ることができるからで、この現象を利用して大阪や京都でも予め予報に基づいて連絡をとりあい、この日を待って同じ測定を行いました。

 さて、伊能忠敬は、振り子時計で経度をどのくらい測ることができたのでしょうか。次回に続きます。
 
 (script by jmchako)
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2012年09月13日

 今年は希な天文事象の多い年で、5月には金環蝕、6月には金星の太陽面通過、8月には(全国的に天候に恵まれない日でしたが)金星が月の後に隠れる金星食がみられました。これらの現象は、長年の天体観測の結果から時分秒単位で予測されていた事象です。さらにこのことを利用して金星観測から日本の経度を正確に求める観測が行われたことを、5月に掲載した記事でお伝えしました。
 このように天体観測と測量すなわち土地の位置の計測とは、密接というか裏腹の関係にあります。そして、もうひとつ、星や地面の「位置」を知るとき重要なものが、お察しのとおり時間です。

  国を治める基本的な要件は、国土(領土)と国民、すなわち国土の位置・範囲を地図や台帳で示し、国土と国民との関係(地籍)を明らかにすることで、これらと並んで、国民の生活時間を一律に支配するも不可欠でした。古代日本における天皇は、「日和見(ひよりみ)」といって、観天望気により時刻や暦を定めることで、権威を得ていたといわれます。

 古代の暦は、当時の先進国であった中国から導入したものでした。古代中国の天文観測は、日蝕の予測ができるほどに精密なものでしたが、862(貞観4)年から用いていた宣明暦も、江戸時代初期には、実際に観察される時間と暦が定める時間とのズレが顕在化していました。そこで徳川幕府は、渋川春海(1639-1715)という数学者・天文学者を起用して、天体観測や各地の緯度・経度の測定等を行い、最終的に国産暦を確立しました。

 青年時代に安井算哲と名乗っていた渋川春海の、改暦への取り組みを描いた映画天地明察が、この9月15日(土)から全国で上映されます。監督は『おくりびと』の滝田洋二郎、主演はV6のメンバーでもある岡田准一、原作は冲方丁による同名の小説(2009)で、第31回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

 いま、位置を知るため「GPS」と呼ばれる器具を使っておられる方も多いでしょう。手軽に使える「ハンディGPS」から、プロの測量士が用いるGPS測量機までいろいろあります。
 IMGP0951sGPSは、Global Positioning Systemの略称で、人工衛星が発する電波を利用して位置を測る測位航法衛星システム(GNSS)のうち、アメリカ合衆国が運営しているものです。

写真は沖縄県石垣市にある
電子基準点

 各国のGNSSは、中国の北斗を除き、対応機器さえ用意すれば原則無償で利用できます。一見、出血大サービスにみえますが、いま技術ビジネスとして急伸している位置情報の技術基盤を提供することで、これに関する国際的な施策の主導権を握るためともいわれています。

 国土地理院が中心となって勧めている地理空間情報活用に関する施策なかで、衛星測位に関わる政策の基本はPNT(:Positioning, Navigation and Timing)と略記されています。PNはそれぞれ「測位」「航法」と訳せますが、"Timing"の適訳はいまのところありません。
 衛星が発する測位信号は一種の「時報」で、4機以上の衛星からの時報を受けて、その僅かな時刻差から導かれるのが3次元の位置+時刻(の誤差)、計4次元の座標です。衛星測位から得る位置と時刻に関する情報が、いまや世界での基本情報となっているのですから、"Timing"とは現代の「日和見」といえるかもしれません。

120915_141539s 『天地明察』に登場する、東京渋谷の金王八幡宮には、江戸時代に奉納された算額(数学の問題や解法を記した絵馬)が保存されています。9月14日(金)〜16日(日)は大祭です。
[9月14日追記]
 
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2012年09月10日

 地殻変動の激しい日本列島。現在の地形の概形は、地殻変動の結果であって「高い山々は隆起してますます高くなり、低い平野や盆地は沈降してますます低くなっている」といわれています。
 国土地理院地理地殻活動研究センターの研究チームが、この9月に北アルプス(飛騨山脈)前穂高岳(3090m)に登り、山頂の一等三角点「穂高岳」(長野県松本市)で4年ぶりにGNSS(☆)観測を行い、山の高さの変化などを精密に測定するそうです(→国土地理院からの公表資料)。

 穂高岳での同様のGNSS観測は、1999年・2005年・2008年にも行われ、平均すると年間5mmほどの隆起する傾向がみられています。今回の観測データと比較することで、過去4百万年の隆起によって形成されたと考えられている北アルプスの隆起が現在も継続しているのか検証するそうです。ちなみに、年間5mmの隆起が百万年間続くと、山は5千m高くなる計算になります。
 2008年と今年2012年の間には、日本列島の東半分が大きく動いた2011年3月の東北地方太平洋沖地震が起きており、これが山の隆起に影響しているのかどうかも注目されます。
 
 さて、山といえば、月刊『地図中心9月号(通巻480号)の特集は「秋だ!野山だ!山ガール!」です。cover480
 これまで男性中心と思われていたいろいろな分野で、若い世代を含め女性の活躍が目立つようになりました。数年前までは「女子」「女子○○」などという呼称もありましたが、語呂がいいのか最近では「○○ガール」などと呼ばれることも多いようです。
 「山ガール」には、初心者ももちろん多いでしょうが、ハイレベルの域に達しながらも「オタク」のような深みにハマることなく、ありのままに仕事と両立させている方も多いようです。そんな山ガールの方々に、さまざまな山との出会いやつきあい方を書いていただきました。

 執筆いただいた山ガールのおひとりは、山歩きがきっかけで高山の地形を研究し、現在は地図会社の技術者として活躍されているそうです。年間数mmの変動が大山脈を形成するように、山に親しみ地図を読み作る女性は、これから着実に増えていくものと思います。
 
☆ GNSS:Global Navigation Satellite System(測位航法衛星システム)。アメリカ合衆国が運営しているGPSが知られていますが、最近はそれだけでなく、ロシアのグロナス(Глонасс)やEUのガリレオ(Galileo)、中国の北斗、そして日本の準天頂衛星など、いろいろな衛星測位システムが開発されています。測位や測量用の受信機もこれに合わせて、GPSだけでなくグロナスなどの衛星電波も受信して測位に使える機器が主流になりつつあります。

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